近世史私説

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help リーダーに追加 RSS 白石晩年の書簡 60

<<   作成日時 : 2009/01/06 13:53   >>

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      六 復庵の加賀帰国

 享保二年の加賀帰国を前に、この年七月二十六日に小瀬復庵は白石宅を訪れた。翌日の白石の書簡には、前田家からの贈り物を復庵が持参したことについての謝辞が述べられている。
 「昨日は御貴臨(御来臨と同じ意味)、仰せ(綱紀の白石への挨拶)を伝へられ候趣承知仕り候。恵賜(贈り物)を拝し奉り候事、重畳忝なき次第に存じ奉り候。あまつさへ参謝の義まで仰せ下され候に付いて、万緒貴様御指引きに任せ奉り候段、もっとも以てその憚り少なからず候。御次手(ついで)を以て幾重にもよろしき様御とりなしの儀頼み奉り候外他事なく候。此等の儀申し上げんが為此の如くに御座候。恐惶謹言。
  七月二十七日              新井筑前守君美 判
 小瀬復庵様
   人々御中
追啓、昨日の御恩問過分の至り、忝なき仕合せもちろんに御座候。かねて貴様まで申し述べ候子細も候へば、まことに望外の御事には存じ奉り候。然りといへどもなほまた愚存申し述べ候は、かへって不恭の儀にこれあるべく存じ奉り候。謹んで御恵賜をば拝し奉り候ひき。此後に至りては、それがし相応の御用もこれあり候て、仰せをこうむるべき御事に候はヾ、すべてこれらの御眷顧に及ばれず候様に、御ついでの節よろしく仰せ上げられ置かれ候はヾ、本望たるべく候。かへすがへす早速拝謝の儀もこれなく候段は、恐れ入り存じ奉り候事に候。以上。
  七月二十七日    【全集第五 221頁】
 復庵宛の書簡の文体はもともと丁重なものが多いが、この書簡は特別にかしこまった言い回しを用いている。恐らく内容から見て、復庵が前田綱紀に直接にこれを見せる事も考慮にいれて書いたのだろう。本書の中で「参謝の儀」とあるのは、綱紀が新築の白石宅を自ら訪れて著書借覧の礼を述べる意志があることを伝えられたと解するほかないが、御三家並の格を持つ加賀百万石太守が退隠後の一旗本を訪問するのは異例中の異例であり、まして吉宗との関係で多くの旧知が白石との交際を何となく避けている段階だから、白石の著作の借覧を綱紀がいかに重視していたかを示すものだろう。しかし、白石側ではそうした「憚り少なから」ぬ面倒な事態は避けたいということで、遠回しに復庵によろしく取りなしをと述べているわけである。さらに追啓では、著書貸与について前田家から礼物を送られることについて、そうした配慮は今後なきようにと付言しつつ、重ねて謝辞をのべている。

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