「桃山文化」について 10

 美術史学の方では「桃山文化」といっても、ある程度範囲を広げて江戸初期を含むようにしているようだ。最も新しい日本美術史概説書の一つである辻惟雄『日本美術の歴史』【東京大学出版会2005年】では、天正期を桃山文化の興隆期とし、慶長期を「装飾美術の展開」する最盛期、寛永期を桃山美術の「終結と転換期」として位置付けている。美術史だけに限定すれば、ここまで広げることによって大体大きな流れは説明できるようで、それなりの説得力があるけれども、文芸の分野などに眼を向ければ、人間観や世界観の大きな転換を経て新しい近世的な作品世界の出現は元禄期を俟たなければならない。すなわち西鶴、近松、芭蕉である。これらの作家を従来通りの「町人文化」という狭い枠の中に閉じ込めることができないことは明らかで、哲学・人間学における伊藤仁斎などとともに、西洋のルネッサンスに比べられるような大きなうねりであったと思われる。陶芸の世界における「桃山」の茶陶の過大な評価と神聖化が現代陶芸をゆがめる結果を招いていることも、多くの人に意識されていることではあり、もっと広く近世前期の諸分野での創造の多様性を正当に評価する視点を持たなければいけないのではないか。

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